新入生の皆さん、東京大学へようこそ。皆さんが入学するこの時代は、大きな変革の渦中にあります。かつては「東大を出れば一生安泰」と考えられてきましたが、今は組織の崩壊や社会の仕組みの限界が明らかになり、その保証はなくなりました。大切なのは安定に甘んじる「安住の精神」ではなく、社会を新しく切り拓く「挑戦の精神」です。これからの人生は、自らの意志と努力で進路を拓く覚悟が必要です。
日本は20世紀型の「組織に属して安定を得る社会」を終え、21世紀は仕組みを根本から作り直さねばなりません。そこでは、多くの犠牲を伴うとしても、挑戦する人材が不可欠です。歴史を振り返れば、安定はやがて堕落を生み、社会を再び挑戦の力で立て直す循環が繰り返されてきました。つまり、社会の運命は人間の精神の持ち方にかかっているのです。だからこそ大学の責務は重く、東大は挑戦する精神を持つ人材を育て、社会に送り出すことを使命とします。
では、皆さんが取り組むべき課題は何か。それは「基本に帰る」ことです。危機の根本は、基本を忘れ、目先の安易さで物事を処理してきたことにあります。大学生活では、まず確かな学力を磨く必要があります。学力低下を防ぐため、東大は厳格な学習管理を行い、決して「卒業しやすい大学」ではありません。油断せず基礎を固めてください。しかし、学力だけでは十分ではありません。社会で真に必要なのは、マニュアルにない事態に直面した時に適切に判断できる力、つまり「考える力・判断力」です。これは教養や知性とも呼ばれ、若い時期に鍛えるほど大きな成果が得られます。
この力を育てるためには、自分自身を開拓する努力が不可欠です。読書や人との出会いを通して、自分の中のフロンティアを耕してください。それは「魂の深さ」を育てる営みでもあり、挑戦する人間に欠かせない条件です。そしてそれを支えるのは、強い意志と目標です。高い目標を持ち、たとえ届かなくても挑戦する姿勢が重要です。目標は私的な成功だけでなく、社会や公共のために向けられるべきです。そこに「志の高さ」があり、社会が本当に求める人材へと成長できます。
東京大学は世界トップクラスの研究力を持ち、自由に学問を追求できる場です。同時に大学は社会からの財政支援で成り立つ公共財であり、知を社会に還元する責務があります。「どの大学を出たか」ではなく「何を学び、何ができるか」が問われる時代、皆さん自身が改革の担い手です。
今、日本は巨大な変革期にあります。この時代を不安ではなく好機と捉え、「挑戦の精神」と「高い志」を胸に堂々と生き抜いてください。東京大学はその挑戦を全力で支えます。
原文リンク:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message13_01.html